
「デーデン……デーデン……デーデン、デーデン」
この音を聞くだけで、多くの人は何が起きているのかを理解します。海、水面を切る背びれ、逃げ惑う人々。映画『ジョーズ』を何年も観ていない人でも、あの音が流れた瞬間、反射的に危険を感じ取ります。バラエティ番組の効果音として流れてきても、誰も説明を必要としません。
私たちは『ジョーズ』をこれほど鮮明に覚えています。では、昨日の朝に読んだ社内規定の内容はどうでしょうか。おそらく、何も出てこないはずです。
セキュリティ教育コンテンツの目的は、人の行動を変えることです。行動を変えるには、まず教材を最後まで観てもらわなければなりません。そして、人を引き込む力があるかどうかで、内容が記憶に残るか、タブを閉じた瞬間に忘れられるかが決まります。
しかし残念ながら、多くのセキュリティコンテンツは、コンプライアンス要件を満たし、決められた項目を網羅するために作られています。だからこそ、内容は正確なのに、心には何ひとつ残らない教材ができあがるのです。
良いコンテンツは、偶然には生まれません。誰かが「記憶に残るものを作る」と決めない限り、そういうものは出てきません。そう決めれば、文章、編集、音楽、演技、照明、音響のすべてを噛み合わせなければなりません。そのどれもが、最後まで観てもらえるかどうかに関わるからです。
多くのセキュリティ意識向上コンテンツが抱える問題は、情報が足りないことではありません。情報はむしろ十分に入っています。問題は、人は情報だけでは動かない、という点にあります。
『ジョーズ』が人々の海に対する感覚まで変えてしまったのは、怖がらせ方を理解していたからです。音で緊張感を出し、次に何が起きるかを予感させ、限界まで引っぱってから一気に解き放つ。だから観る人の注意を引きつけ、感情を動かすことができました。一方で、多くのセキュリティコンテンツはセルフレジの音声案内のように語りかけてきます。無機質で、面白みがありません。
だからこそ、制作の質が重要になります。見栄えのためでも、演出に凝りたいからでもありません。制作の質は、最後まで観てもらえるか、そして覚えてもらえるかを直接左右します。
セキュリティコンテンツを、仕様書だけで選び、点検に来た人にうなずいてもらうために置いておく消火器のように扱うのはやめましょう。そうではなく、最後まで注意を引きつけられるか、後から思い出せるか、そして必要な時に正しい判断を後押ししてくれるかを基準にしてください。
「正しいけれど、退屈」は、小さな欠点ではありません。教材としては、完全な失敗です。
一方であのサメは、一度食らいついたきり、何十年経っても私たちの記憶から離れてくれません。
原典:Javvad Malik著 2026年8月18日発信 https://blog.knowbe4.com/why-people-remember-jaws-but-forget-your-security-training