AIとは何なのか?いまやあらゆる場面で語られるこの言葉ですが、その本質を正確に説明できる人は意外と少ないかもしれません。本記事では、AIに対する誤解や過剰なイメージを整理しつつ、その本質に迫ります。
人工知能(AI)という概念は、実は1950年代にはすでに登場していました。その後、機械学習やニューラルネットワークなど、さまざまな形で研究が進められ、現在に至っています。
AIが一気に注目を集めるようになったのは、2022年10月にOpenAIがChatGPTを一般公開してからです。それ以降、AIという言葉を聞かない日はないほど、あらゆる業界で話題になっています。
私ごとですが、最近では、どんなプレゼンテーションでもAIについて触れないわけにはいきません。AIの話が出ないと「聞いた気がしない」と感じる人もいるほどです。ある程度の“怖さ”や“インパクト”がないと満足してもらえないことさえあります。
それだけ、AIが現実のものとして私たちに影響を与えているということです。
私自身は、AIに過剰な期待も過度な不安も抱いていません。AIを現実的な視点で捉える「AIリアリスト」だと思っています。
以前はこう言っていました。「AIの進化は確かに進んでいるが、実際に多くの人が被害を受けているのは、昔ながらのサイバー攻撃だ」と。
しかし今は、もはやそうは言えません。現在流通している多くのフィッシングキットにはAIが使われており、新たな攻撃手法の多くにAIが関与しています。そしてこの傾向は、今後さらに強まっていくでしょう(この点については、次回の記事で詳しく触れます)。
では、改めて問い直してみましょう。
AIとは一体、何なのか?
世の中には「AIを搭載しています」とうたう製品やサービスが数多くありますが、それが本当にAIなのかどうか、明確な線引きはされていないことがほとんどです。実際には、マーケティング的な意味合いで使われているだけのケースも少なくありません。
だからこそ、まず定義が必要なのです。
私自身、AIに関する書籍を十数冊読み、数えきれないほどの記事をチェックしてきました。AIに精通したメンターとも、何か月にもわたって議論を重ねてきました。それでも、「これがAIだ」と言い切ることの難しさを感じています。
一般的には、AIとは「人間のように推論や判断を行うソフトウェア」と説明されます。「まるで人間のように振る舞う」という言い回しもよく耳にします。私自身も以前はそう話していました。
しかし、最近ではその表現に違和感を覚えるようになりました。
AIは人間ではありません。感情もなく、意志もありません。AIは、与えられた情報をもとに、プログラムされたルールや仕組みに沿って出力を返すだけのシステムです。自分で思いつくことも、新しい価値観を持つこともありません。
たとえば、AIが誰かを脅すような言葉を返したとしても、それは「脅そう」と考えたわけではなく、人間が過去に使った表現のパターンを真似ているだけです。
私たち人間は、身の回りのものに人間らしさを投影しがちです。たとえば、ペットに話しかけて通じ合っていると感じたり、ぬいぐるみに感情を込めて接したりすることがあります。AIの返答に「人間っぽさ」を感じるのも、同じような心理だと言えるでしょう。
とはいえ、AIがまったく人間らしく見えないかというと、そんなことはありません。自然な返答をしたり、思わず驚くような判断を下したりすることもあります。
たとえば、囲碁のAIが人間のトッププレイヤーを破ったとき、従来の定石から外れた一手を打って勝利したことが話題になりました。「AIが新しい戦術を生み出した」と言われることもありました。
とはいえ、AIがこの戦術を生み出したわけではありません。AIは、大量の過去データの中から勝利に繋がる新たなパターンを見つけただけなのです。それも、「勝つ」という目的のために設計された仕組みの範囲内での話です。
AIが自ら新しいルールを考えたり、別の分野に応用したりするわけではありません。あくまで「そうなるように作られていたから、そうなった」だけです。
このように見ていくと、AIの本質が見えてきます。
AIとは、「パターンを認識し、最も確からしい答えを導く技術」である。
もう少し具体的に説明しましょう。
現在主流となっているAIの多くは、大量のデータを取り込み、そこから「次に来る可能性が高いもの」を確率的に予測して出力するという仕組みで動いています。文章の生成でも、画像の生成でも、音声や映像でも同じです。
たとえば、「I am going …」という文の続きを考えるとき、AIは「home」「to work」「crazy」など、過去に頻出したパターンをもとに、最も自然な語を選び出していきます。一語一語、最も可能性の高い選択肢をつないでいくイメージです。
これは、あくまで確率的な処理であって、意味を理解しているわけではありません。
このようなAIの仕組みは、当然ながら誤りも起こします。たとえば、AIが描いたイラストの手に指が6本あったり、簡単な計算を間違えたりする例は少なくありません。それはAIが「理解」していない証拠です。
また、「birds and bees(鳥と蜂)」という英語の表現を入力すると、多くのAIは性教育に関する内容を返してくるかもしれません。英語圏ではその表現がそうした文脈で使われることが多いためです。たとえ本当に鳥や蜂の生態について尋ねていたとしても、AIは文脈のパターンに従って出力しているだけなのです。
AIは意味を理解しているのではなく、データ上の出現傾向に沿って「もっともらしい答え」を返しているだけなのです。
そして、こうした仕組みは特定の分野に限らず、さまざまな場面で応用が可能です。文章の生成、画像の解析、音声認識、さらには医療や金融に至るまで、あらゆる分野に応用できる柔軟性があります。
だからこそ、私はこう定義しています。
AIとは、「汎用的な確率ベースのパターン認識エンジン」である。
もちろん、今後AIがこの定義を超える進化を遂げる可能性もあります。しかし、少なくとも現時点で「AIとは何か?」と問われたときに、最も正確かつ本質的に表しているのは、この説明だと考えています。
原典:Roger Grimes著 2025年6月13日発信 https://blog.knowbe4.com/what-is-ai