セキュリティ意識向上の次へ:人とAIエージェントを守る新たなアプローチ

TOKYO, JP | 2026年07月22日

Evangelists-Martin Kraemer

セキュリティは、一度きりのトレーニングプログラムから脱却し、組織全体に組み込まれ、AIを活用した動的な「人とAIのリスクオーケストレーション」へと進化しなければなりません。

従来のセキュリティ意識向上の狙いは、知識を従業員の頭に詰め込み、いざ危険な場面が訪れるまでそれを保ってもらうことにありました。組織はトレーニングを実施し、テストを行い、受講完了率を報告して、そこで一段落とする。ところが、それでもインシデントは後を絶ちませんでした。毎年繰り返される事態は、サイバーインシデントの大半に人間の行動が関与しているという事実を浮き彫りにしています(Verizon DBIR 2026によると62%)。

問題は質の低いコンテンツやトレーニングの提供方法ではありません。サイバーセキュリティの専門家が立てていた問いそのものが間違っていたのです。問うべきは、「どうすれば、従業員全員が最もセキュアに行動しやすい環境を作れるのか?」です。

こうした視点の転換は、いま、これまで以上に重要な意味を持ちます。なぜなら、ワークフォース(労働力)そのものが変化したからです。今や組織は、従業員と並んで働くAIエージェントを導入しています。AIエージェントは、人と同じメールを読み、同じシステムに触れ、意思決定を下します。このワークフォースを守るには、トレーニングだけでは足りません。今後求められるのは、人々の行動をどう引き出し、全体として整えていくか、いわば「行動のオーケストレーション」です。しかもその答えは、人間とAIエージェントの双方について、別々に出さなければならないのです。

なぜ「意識向上」だけでは不十分なのか

従来のトレーニングは、セキュリティ意識向上の重要な土台を築いてきました。しかし、脅威がより高度化する中で、持続可能なセキュリティを実現するには、「知る」から「実行する」へと移行する必要があります。この進化を促す方法は、大きく2つあります。

注意力(Attention):反復による強化がなければ、新しく学んだ内容の大半は時間とともに失われていきます。ヘルマン・エビングハウス氏は、これを「忘却曲線」として示しました。フィッシングメールがトレーニング当日に都合よく届くことはまずありません。だからこそ、これからのセキュリティには、年に一度きりではなく、継続的な反復学習が求められます。

行動デザイン(Behavioral Design):意識が高まったからといって、それが自動的に行動に結びつくわけではありません。B.J.フォッグ氏の行動モデルが示すように、行動は「動機(Motivation)」「能力(Ability)」「きっかけ(Prompt)」の3つが同じ瞬間に揃ったときにのみ起こります。

次に目指すべきは、人々が意識せずともセキュアに行動できるよう後押しされる環境を築くことです。つまり、ちょうど良いタイミングで従業員にきっかけを与えることです。これこそが、標準的な意識向上を、人々が本能的にセキュアに振る舞う「持続可能なセキュリティ文化」へと引き上げる方法です。

人間のように振る舞うエージェント

私たちは20年にわたり、「リンクにカーソルを重ねて確認せよ」「送信者を確かめよ」と人々に教えてきました。ところが今、私たちが導入しているAIエージェントは、その同じメールを読み、それに対する返信も行います。しかしAIエージェントは、人の行動を律している良心や慎重さを持ち合わせてはいません。

「EchoLeak」と呼ばれる攻撃があります。これは、AIアシスタントが処理する通常のコンテンツの中に悪意ある指示を潜ませておくプロンプトインジェクションの手法です。ユーザーが何一つクリックしなくても、エージェントが機密データを漏洩してしまいます。エージェントは、攻撃者が仕込んだ内容を読み込み、それを指示として受け取り、その通りに行動してしまうのです。

エージェントは、ソーシャルエンジニアリングの標的になり得ます。読み込むコンテンツを通じて操作され、本来拒否すべき指示をそのまま実行してしまうこともあります。私たちが導入しているAIエージェントは、確率的(probabilistic)で非決定論的(non-deterministic)なものとして、意図的に設計されています。同じ入力に対して常に同じ出力を返すとは限らないということです。こうした不確実さを受け入れてでも導入するのは、AIによって得られる価値のほうがはるかに大きいからです。

AIエージェントの侵害は、従来のソフトウェアの侵害とは大きく様相が異なります。それはシステムが破られたというより、人が誤った判断を下してしまう状況に近いものです。ただし人間と違うのは、それが機械ならではの速さで一瞬にして起こり、しかも中で何が起きたのかが外からほとんど見えないという点です。

これを検知するには、エージェントが「何を指示され」「どう推論し」「なぜそう判断したのか」を理解する必要があります。そのためには、専用のセキュリティレイヤーが欠かせません。実際に動いているランタイムに稼働し、その「意図」を可視化する仕組みです。人間にもエージェントにも、求める行動の基準は同じです。ただ、それを実現する仕組みが違うだけです。

なぜ手作業では対応できないのか

先ほど述べた「行動のオーケストレーション」を、組織全体の規模で手作業のまま行うのは現実的ではありません。AIが生成するス攻撃は、次の定例トレーニングを待ってはくれません。セキュリティ担当部署が暴走するAIエージェントを検知することも不可能です。

さらに、人の行動を実際に変えられる打ち手は、一人ひとりに合わせた個別のものでなければなりません。適切なコンテンツを、適切な人に、適切な瞬間に届けるには、AIエージェントの力を借りる必要があります。

一つのデジタルワークフォース、一つのサイクル

エージェンティックAIを本格的に導入する企業においては、ヒューマンリスクとエージェントのセキュリティを別々の問題として扱うことはできません。両者は一つの課題として管理されなければなりません。これらのリスクを別々のスコアに切り分けて管理する方法は、2つの理由から機能しません。

連携した対応が取れない:3つのツールに3つのリスクスコアがあっても、バラバラなままで、連携した一つの対応にはなりません。状況の変化に合わせて動くには、統一されたリスクモデルと対応計画が必要です。ワークフォース全体を俯瞰できるプラットフォームだけが、「何をすべきか」を判断できます。

文化を醸成できない:文化は、人々が同じ経験を繰り返すことで築かれます。セキュリティを個別のベンダーで管理していては、伝わるメッセージも統一性がなくなってしまいます。必要なのは、予防から対応、修復までを貫く一貫した体験です。フィッシング訓練、コラボレーションセキュリティ、エージェントセキュリティ。これらを一つにつないだ体験があってはじめて、セキュリティのメッセージは、人々が自分のものとして受け止められるものになります。

ワークフォース全体のセキュリティリスクを測る「一つのサイクル」こそが、正しいアプローチです。統合されたリスクスコアと対応計画は、組織に「どこを見るべきか」「次に何をすべきか」を示し、すべての人間とAIエージェントを、信頼でき、防御に足るビジネスの一部へと変えていきます。

まとめ

今の時代に本当に効果のある防御は、2つの組み合わせで成り立ちます。1つは、デジタルワークフォース全体を動いている最中に見張る、実行時(ランタイム)のガバナンス。もう1つは、エージェントに何をどこまで許すかといった、設計の段階であらかじめ決めておくべき重要な判断です。意識を高めるだけでは、もう守れません。とはいえ、従業員の行動が変わらないまま脅威だけを止めようとしても、これまでうまくいってきませんでした。

AIエージェントは今や、人間と並んで実際の業務を回しています。しかもその一方で、人間と同じように、外部から操られてしまう危うさを抱えています。だからこそ組織は、人間とエージェントのどちらに対しても違和感なく機能する、実行時のガバナンス、ツール、そしてプロセスを整えなければなりません。

原典:Martin Kraemer著 2026年7月10日発信 https://blog.knowbe4.com/from-awareness-to-digital-workforce-security

トピック: フィッシング, KnowBe4 SATブログ, セキュリティ文化

KnowBe4について

KnowBe4 は、従業員が日々、より賢明なセキュリティ判断を下せるよう支援します。世界中で70,000 以上のお客様に支持され、AIエージェントと人間の双方をセキュアに保つ「デジタルワークフォースセキュリティ」のパイオニアです。KnowBe4のプラットフォームは、AIDA(Artificial Intelligence Defense Agents)と独自のリスクスコアを活用した攻撃シミュレーションとセキュリティを提供します。このプラットフォームは、15年分の行動データを活用し、ソーシャルエンジニアリング、プロンプトインジェクション、シャドーAIなどの高度な脅威に対抗します。人間とAIエージェントを保護することで、KnowBe4はワークフォースの信頼性と防御において業界をリードします。