今、戦争の本質が、根底から変わろうとしています。ここには、進化し続けるテクノロジーがあります。このブログでは、この数年話題によく登場する認知戦(Cognitive Warfare)について中国を例にとって考察します。
中国が進める「認知戦」とは、どのようなものなのでしょうか。認知戦とは、敵の心理や思考などに働きかけ、戦略的に有利になるような政策決定や世論を作り出す作戦です。中国は、この認知戦により、通常兵器を使うことなく、政治的勝利を達成しようとしています。認知戦では、多くの場合、人の心理を操る大規模なソーシャルエンジニアリング戦略が展開されます。この一環として、中国人民解放軍は、人工知能(AI)を活用した軍事システムや戦略を取り入れた「認知戦」の能力を増強しています。中国人民解放軍が「認知領域」を新たな主戦場とすれば、世界の紛争の力学が大きく変わる可能性があります。これは、世界の平和を考える上で、大きな懸念の1つです。
また、習近平国家主席は、AIなどの最先端技術による科学技術強国路線や富国強軍路線を掲げています。その戦略路線として、人民解放軍が認知戦に対する能力を増強しています。中国は、国家主導で、2030年までにAIの領域でも覇権を握ることを目指しており、「情報処理」、「無人の兵器」、「意思決定」の3つの分野でのAIの活用を促進させています。
中国はさらに一歩踏み込んで、認知戦にAIを活用する戦略を進めています。これは、敵対国の意思決定者、軍事司令官、世論に影響を与えることを目的としています。例えば、中国政府はソーシャルメディアなどを通じて偽情報を流し、世論を操作し、米国による台湾支援について疑心暗鬼を生じさせることが考えられます。
この認知戦を進めるためには中国で始まっていることは、認知戦に必要なサイバー戦、心理戦、ソーシャルエンジニアリングの能力を高めていることです。また、認知戦を展開するためには、詳細な個人情報を大量に収集し蓄積する必要があります。大きな懸念は、中国はすでに米政府関係者や米国市民に関する膨大なデータを収集しており、これを情報戦に使う可能性があることです。
人民解放軍は、AIによって兵士の心理状態をコントロールすることにも注力しています。同時に、中国は、兵士が実際の戦闘状況に適切に対応できるように、ウェアラブル技術や「心理支援システム」の開発も進めています。兵士の顔情報を連続的に記録し、リアルタイムに心理状態を判断することができるAIを駆使したスマートセンサーブレスレットなどが開発されています。
中国が仕掛ける「AI戦争」が成功するかどうかは分かりません。しかし、ここで注目すべき、極めて重大なことは、中国が注力しているソーシャルエンジニアリング攻撃の規模が拡大していることです。その背景には、ソーシャルエンジニアリング攻撃の巧妙化を支援するChatGPTなどの生成AIが飛躍的な進化を遂げており、ソーシャルエンジニアリング攻撃の成功率を高めていることです。
ソーシャルエンジニアリング攻撃の進化については、KnowBe4はセキュリティ意識向上トレーニングブログで逐次取り上げていきます。
原典:Stu Sjouwerman著 2023年5月26日発信https://blog.knowbe4.com/mastering-minds-chinas-cognitive-warfare-ambitions-are-social-engineering-at-scale